第19回日本音楽療法学会学術大会



                                                  大阪国際会議場(グラン・キューブ大阪

                                                         2019年9月22日


欧米のポップ音楽が日本のポップ音楽に与えたもの

1960年代欧米ポップ音楽の日本語カバー・ヴァージョンからグループ・サウンズまで                                           三井 徳明(日本ポピュラー音楽学会)

[研究の目的}欧米で作られたポップ音楽(以下洋楽と表す)は日本人に好まれた。その後日本人により作られた日本のポップ音楽(以下邦楽と表す)には洋楽の要素が多く取り入れられた。今回は1960年代洋楽の日本語カバー・ヴァージョンからグループ・サウンズ(以下GSと表す)を中心に本研究を進めた。
方法]
関連する文献、音源資料の収集、当時を知る人たちの証言記録などを参考にした。そのため当時の音源、活字媒体だけではなくインターネット上に乗せられている情報や画像も参考に加えた
「結果」太平洋戦争終結後米連合国総司令部によって米国のポップ音楽を日本人向けにラジオで多く流した。明るく楽しい洋楽は戦争に疲れた人々に好まれ愛唱された。戦後2年半後の1948年 米国のジャズ・リズム、ブギウギをベースに服部良一作曲、笠置シズ子歌唱「東京ブギウギ」が大ヒットした。その後ダイナ・ショア「ボタンとリボン”Buttons And Bows”を日本語カバーした池真理子は「バッテンボー]と発音し流行語なりヒットもした。1958年に始まるロカビリーが大ブーム時日本人歌手によって米国の人気歌手の曲目を日本語でカバーしラジオを通じ彼らは人気者になった。それは日劇ウエスタン・カーニバルに大勢の観客を集めた要因でもある。その後の1960年代戦後初期に生まれた人たちが10歳代思春期を迎えた1960年代初期の洋楽の日本語カバー・ヴァージョンがラジオ・テレビを通じ一代ブームとなった。時期を同じくし坂本九「上を向いて歩こう」ザ・ピーナッツ「ふりむかないで」といった洋楽色の濃い曲目が大ヒットした。1964年英国出身のビートルズは全世界的な人気者となった。その流れは我が国も及び洋楽需要は高まった。その後ビートルズなど英国のリバプール・サウンド、ベンチャーズなどエレキ・グループのサウンド・スタイルをコピーした当時20歳前後の男性中心のバンドが多く各地で結成された。その中でプロ活動を始めたグループも多く1966年から3年あまりの短期間であるがGSは大ブームを記録した。GSの楽曲の多くはすぎやま・こういち、筒美京平、村井邦彦、鈴木邦彦などレコード会社非専属の音楽家によって作られた。企業の販売戦略もあり彼らのヒット曲の多くは洋楽の要素を多く取り入れた邦楽色の強い曲目であった。この当時はレコード会社専属音楽家制度がありフリーな若手音楽家の表現場所は限られていた。そのためGSレコードの多くは我が国のレコード会社と契約されている洋楽レーベルより洋楽扱いで発売されていた。その後専属音楽家制度は崩壊し分業化も進み音楽業界は著しく変化した。
[考察]今回太平洋戦争終結後から1960年代までの我が国の邦楽への洋楽の関わり方について見てきた。特に戦後初期に生まれ当時10歳代思春期であった世代の音楽思考形成に大きく影響し変化の流れを加速した1960年代初期の洋楽の日本語カバー・ヴァージョン、ビートルズを主とする洋楽の需要、そして中期から後期のGSまでをみてきた。それは現在のJポップや日本語ロックのルーツとされている。特にGS出現後専属音楽家制度は崩壊した。レコード・ビジネスの分業化など我が国の音楽業界の体質を大きく変えた。現在もGSについては賛否が多くある。しかし近田春夫、黒沢進らによって再評価もなされている。
 戦後初期に生まれた人たちも現在70歳前後の高齢期に入っている。そのため高齢者向け音楽療法の主体はこの世代が中心となる日は遠くない。そのため日本人が洋楽を好み受容し邦楽に洋楽の要素を加えた独自の音楽文化を創り上げてきた。音楽療法士は正しく知るべきである。また臨床現場において使われる曲目の主流が1960年代の洋楽および邦楽曲が中心となりえよう。この世代は音楽知識も豊富である。そこで対象者から当時の思い出話や演奏技術を聞き出し応用することも一つのアイディアであるとも言えよう
 今後も本研究を継続して行きたい。臨床現場から、別の研究者からの視点での再検討にも期待したい。
[結語]日本人は古くから洋楽を好んでいた。戦後GHQによって洋楽が推奨された。その結果邦楽には様々な形で洋楽の要素が取り入れられ日本人独自の音楽文化を形成した。

 

 

 

 

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