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日本音楽療法学会 第3回信越・北陸地区学術集会

                             2005年6月24日 長野市    



   齢者の音楽の好みとマス・メディアの影響

                        三井徳明(金沢医科大学)

  .はじめに
 高齢者に対する音楽療法は、その治療的手段は障害者が中心であるが健常者に対しても民謡教室、老人会などのカラオケ・パーティーなどでの音楽の活用は体力向上、ぼけ防止、横のつながりの強化など予防医学の視点から見てきわめて重要度は高い。それを立証するため昨年に引き続き同じ内容によるアンケート調査を行った。そのなかより好きな歌手、好きな曲目その他の解答より高齢者の音楽の好みにはマスメディアの影響がきわめて大きいことがわかった。ここに若干の考察を加え報告する。
   
.目的および対象
 高齢者の音楽の好みとその特徴、社会背景を知るため石川県内に在住する65歳以上の人たち(以下対象群と略す)153名(男性51名、女性102名)と今後10年前後に対象群の年齢に達する51歳以上64歳までの人たち(以下比較群と略す)180名(男性52名、女性128名)に対し年齢、性別、音楽の好み、音楽を聴く媒体、歌う場所、音楽から得られる感情、印象に残る世代の音楽、最近の音楽に対する感情、好きな歌手、好きな曲目など 17 項目より好きな歌手、好きな曲目を中心にこの世代の人たちの音楽思考に対しマスメディアの与えた影響について調査分析し
  .結果
 今回の調査結果より 1.音楽が好きと答えた人たちは、対象群では(男性88.3%、女性93.1%)比較群では(男性90.4%。女性93.0%)と非常に高かった。 2. 音楽の楽しみ方については聞くことが好きと答えた人たちは、対象群では(男性76.5%、女性82.4%)比較群では(男性73.1%、女性85.2%)であった。音楽を聞く媒体としては両群ともテレビ・ラジオなどがもっとも多く、 CD ・カセット・テープなど求めて選ぶメディアのものよりも多数であった。また歌うことについては好きと答えた人たちは対象群では(男性45.2%、女性32.4%)比較群では(男性63.5%、女性38.7)で両群ともそれほど高くなく性差をみた。その背景として歌唱力に自信がないこと、そして北陸人特有の控え目な性格が影響していると思われる。 3. 印象に残る世代の音楽について問うたところ10歳代の思春期と答えた人たちは対象群では(男性7.6%、女性 21. %)比較群では(男性34.6%、女性29.7%)20歳代結婚前は対象群では(男性37.3%、女性30.4%)で比較群は(男性48.1%、女性45.3%)であった。そしてテレビが普及し始めた昭和35年頃と答えた人たちは対象群では(男性27.5%、女性28.4%)、一方比較群でも(男性30.8%、女性17.1%)であった。ここに解答した人たちの大多数はこの時代は10歳代であった。そして未婚でもあり現在でいうモノトリアム(大人と子供の中間期)であった。我が国における高度経済成長が始まり我が国のマス・メディアにとって革命的時期でもあり歴史的にも重視されるべきであろう。そのため、この項目の解答を比較群の10歳代思春期に加えず別途表記とした。 4.好きな歌手3名をあげてもらったところ両軍とも歌謡曲が大多数であった。うちわけは対象群ではいわゆる演歌系が(男性51名、女性121名)でもっとも多く、次にいわゆる青春歌謡が(男性 8 名、女性13名)であり、女性のみにニュー・ミュージック、ポップス系歌手11名が好みとしてあげられていた。一方比較群ではいわゆる演歌系が(男性52名、女性93名)。青春系は(男性 7 名、女性19名)でニュー・ミュージック系(男性 5 名、女性 17 名)、ポップス系(男性3名、女性9名)など世代格差をも認めた。5.最近の音楽について好むと答えた人たちは対象群では(男性13.9%、女性30.0%)、比較群では(男性23.0%、女性43.8%)と女性のほうが新しいものを好む傾向が見られた。
  .考察
 今回行ったアンケート調査の結果高齢者の音楽の好みにはマスメディアの影響が非常に大きく、解答者数では女性が男性の約2倍であった。そして新しい音楽への受け入れも女性のほうが高く、若者のポップス、欧米のポップス、童謡・唱歌など好みも多彩である。この結果背景として中高齢女性は活動場所の中心が家庭内であること。仕事中にテレビやラジオなどマスメディアを通じて音楽と接する機会が多いこと、その結果として女性のほうが男性より音楽を好む人が多いことを示している。また好きな歌手を問うたところ対象者女性では26名、そして60歳代前半の女性では15名が美空ひばりをあげている。また50歳代の男女とも好きな歌手にビートルズをあげている。前者では美空ひばりが彼女たちの思春期の頃は今ほどマスメディアは発達していない時期であるが、民間放送の開局、テレビ放送の開始と受像器の普及によって聴覚・視覚的に刺激されアイドル化し現在も心に残されていると思われる。また後者の人たちはいわゆるビートルズ・エイジといわれる人たちで日本の欧米音楽を進めた世代であること。そして40年後の現在も前者と同じく記憶に色濃く残されていると考えられる。一方テレビが普及し始める 1960 年以前に活躍した歌手や楽曲を好むと答えた人は少数であった。また由紀さおり、安田祥子姉妹が童謡を歌いブームとなり幼小児期の思い出も重なり今回の調査では聞く音楽のなかで好きなものの一つに童謡・唱歌をあげた女性は対象群では35.3%、比較群では24.2%と演歌・歌謡曲に次ぐ2番目の支持率を得た。この手のCDや雑誌などの売れ行きも以前に比べて好調である。また現代的キャラクターを持つ演歌歌手氷川きよしは高齢女性のアイドルとなっていることなどマスメデイアの影響は大きく計り知れない。
  .おわりに
 今回の結果では高齢者の音楽の好みにはマスメディアによって与えられた影響を知ることができた。今後とも社会学、民俗学、風俗学の視点よりこの分野での研究を進めてゆきたい。そして臨床場面への指針としたい。