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参加学術団体
第5回日本音楽療法学会  
                       2005年9月11日 名古屋市 金城学園

     

高齢者の音楽の好みとその特徴 〜生活場面と社会背景〜

                                      三井 徳明(金沢医科大学)


{はじめに}
高齢者に対する音楽療法は治療手段の一つとして重要である。その現場で使われる曲目選択はいわゆる懐メロや癒し系の音楽などで従事者の自主的判断によってなされている。今回高齢者の音楽の好みを知ることを目的にアンケート調査を行った結果意義をみたので若干の考察を加え報告する。

{対象}
今後10年前後に高齢者となる51歳以上の人たち(以下比較群と略す)180名(男性52名、女性128名)に対し年齢、性別、音楽が好きであるか、好むのは聞くことか歌うことか、好みのジャンル、音楽によって得られるもの、印象に残る時期の音楽、好きな歌手・曲目、現在の音楽への感情など17項目を記述式にて行った。

{結果}
(1)音楽がとっても好き、好きと答えた人たちは対象群
91.5%、比較群93.2%であった。(2)音楽の楽しみ方は聞くことが対象群男性76.5%、女性82.4%。比較群男性72.3%、女性85.2%。歌うことは対象群男性45.1%、女性32.4%。比較群男性63.5%、女性36.7%と大きな性差を見た。(3)好きなジャンルは聞くことは演歌・歌謡曲が対象群77.1%、比較群68.8%と最も高く、童謡・唱歌はブームも重なり女性に高く対象群35.3%、比較群24.2%をしめた。また歌う曲目はカラオケの影響も大きく演歌・歌謡曲が対象群男性64.7%、女性51%、比較群男性32.7%、女性60.2%と最も高く、童謡・唱歌、欧米のポップスなどが続いた。(4)音楽を聴く媒体はCD・カセットなどが対象群男性56.9%、女性35.3%、比較群男性48.1%、女性50%。テレビ・ラジオは対象群男性47.1%、女性66.7%、比較群男性59.6%、女性59.4%であった。また歌う場所はカラオケが対象群男性33.3%、女性18.6%、比較群男性34.6%、女性19.5%と最も高く仕事中や子守は対象群男性7.8%、女性14.7%、比較群男性5.8%、女性16.4%であった。(5)音楽を聴くこと、歌うことで得られたものに心が和む、楽しく生き生きしてくる、悲しみからの脱出などの相乗効果が上げられていた。(6)印象に残る時期の音楽は対象群は20歳代結婚前男性37.3%、女性30.4%と最も高く、テレビが普及し始めた昭和35年頃は男性27.5%、女性28.4%であった。比較群は男女とも10歳代思春期、20歳代結婚前が7割以上であった。(7)好きな歌手として選ばれた人たちの活躍時期を見たところ1960年以前からの人たちは対象群で見たところ(男性69名中17名、女性178名中18名)と少数であった。
考察}
今回行ったアンケート調査の結果対象群・比較群とも音楽が好きな人たちが多く協力者数は女性が男性の2倍であった。その生活背景として我が国の女性は屋内での仕事が多くラジオなどより音楽に接しやすいこと、育児のなかで子供や孫と歌うことや踊ることが多いこと、活動範囲が男性に比べ狭いこと、行動範囲が家庭中心でテレビを見たりラジオを聞く機会が多いため必然的に新しいものを受け入れやすいと思われる。また社会的背景としては対象群では10歳代の思春期の頃は戦時体制下で文化活動が著しく規制されていたこと、戦後米進駐軍による改革が進められラジオを通じジャズやポップスなどが流された。しかし当時の人たちには音楽思考は異なり受け入れにくかった。そのため10歳代思春期の音楽感情がうすいと思われる。そして現在ほど高度の音楽教育を受けていないため楽譜が読める人は少なく受け入れは受動的である。しかしカラオケの普及によって歌う機会が増え歌唱力も向上しているが演奏活動などの能動的受け入れはまだ低い。そのため高齢者の音楽療法は障害者ばかりではなく健常高齢者へも健康維持、生活の質の向上の一つとして重要である。そのため老人会の音楽活動などへの音楽療法士の関与が必要ではないか?


今回行ったアンケート調査によって一定の評価と既成概念のできたことなど意義ある結果といえよう。今後もっと深く研究活動を続けてゆきたい。