第15回日本音楽療法学会学術大会



                                          2015年9月13日 札幌市 コンベンション・センター


          

 

現在60歳前後の人達の音楽思考と特徴
〜将来高齢者となる人達への音楽支援のあり方〜

 

                            三井 徳明(日本ポピュラー音楽学会)

 

{研究目的}我が国の人口構成では60歳以上の人たちが最大多数である。その結果社会福祉関係予算は過度に膨張し財政を圧迫している。現在60歳前後の人たちも後10年以内には介護保険法に定める介護予防の対象者となる。そのため高齢者が健康で充実した生活を保つための一手段としての音楽療法もきわめて重要である。対象となる人たちへの適切なサービス提供を施すためにはポピュラー音楽や音楽社会学的知識の習得が急務である。
〔方法〕この世代の人たちの音楽の好みと特徴をつかみ、当時の社会状況を見るための資料収集、関係者の証言、小生が以前行ったアンケート調査と追跡調査などを参考にした。
 本発表では1947年から50年に生まれ「ベビーブーマー」と呼ばれた人たちを第一群、1951年から53年に生まれた「ポスト・ベビー・ブーマー」と呼ばれる人たちを第二群、そして1954年から56年に生まれ「近く60歳代を迎える人たち」を第三群とした。
〔結果〕第一群では思春期を迎えた1960年代初期にはテレビ受像器が都市部を中心に急激に普及した。米国の豊かな生活を描いたホーム・ ドラマが日本語に吹き替えされ放映された。 また人気歌手が多数出演する音楽番組、音楽バラエティー・ショウが作られ高い視聴率を記録した。その結果人気スター、人気歌手が以前と比べ身近な存在となった。 また現在日本語カバー・ヴァージョンと呼ばれ米人気歌手の曲目に日本語歌詞が付けられ日本人歌手によって歌われた曲目が大流行した。 その後彼らは本場の洋楽作品を好むようになり英語の歌詞で歌うなど英語力もいくらか向上した。 第二群では兄弟姉妹に第一群世代がいる人が多くその影響を受け洋楽作品が好んで聴かれた。 その後グループ・サウンズと呼ばれ少人数エレキ・バンドによる歌謡作品を好んだ。第三群の人たちが思春期を迎えた1960年代後期から70年代初め日本人歌手の自作のフォーク作品が好まれた。その後ニュー・ ミュージックと呼ばれ欧米ポップの影響を受けた歌謡作品が一つのジャンルとなった。 また1970年代に入りテレビ放送が白黒からカラー放送に移り新御三家、新三人娘など視覚も意識した企画化がなされアイドル歌手の時代となった。その結果1964年ビートルズの世界進出時はレコード売り上げは洋楽優位であったが邦楽優位と変貌した。
 この三つの群に共通して言えることは高度経済体制に貢献した人たちであること。 そして1960年代、70年代は現在に比べ音楽番組が多く作られ新しい曲目や人気歌手を知る媒体の一つであった。またラジオ放送の果たした功績は大きく第一群、第二群世代の人たちは音楽情報を知るための手段としてラジオが広く活用された。その後ラジオ深夜放送は大学や高校の受験を迎える人たちの心をいやし、支えと励ましとも成った。そして1970年代初期から中期テレビ出演を行わなかった歌手の情報や曲目を知るための一手段として広く活用された。特に当時思春期であった第三郡世代の音楽思考形成に深く関与した。
 この世代の人たちは日常生活の中に音楽が深く関与し音楽情報や好みの歌手の話題が多くあった。この世代人たちも年齢を増すごとに音楽思考には保守化し好まれる曲目は演歌・歌謡曲が主流である。ただし女性は男性に比べ音楽好きの人が多く現在20歳代、30歳代の人たちが好む J ポップ、Kポップ、新しい洋楽など新しい音楽作品も好まれている。
考察〕今回現在60歳前後の人たちの音楽思考と特徴について述べてきた。この人たちは我が国の高度経済成長を支えた世代である。音楽好きの人が多くレコードなど音楽媒体への出費額は現在の20歳代、30歳代の人と比べ多く、また音楽番組も多く作られた。番組内での情報提供も多く生活場面でも大きく影響した。ただしこの世代の人たちも年を重ねるうちに音楽思考は保守化し演歌・歌謡曲などより日本的な曲目が好まれる傾向にある。
 今後高齢期を迎えるこの世代人たちは音楽知識は深く多様化している。そのため音楽療法士には曲目の作られ方、当時の社会背景を知る必要があり本発表に意義あると言えよう。
結語}今後高齢者の生活の質の維持、福祉関係予算の軽減のためにも介護予防目的の音楽療法はきわめて重要視される。そして音楽療法士の職域拡大にもつながる。そのためにも本学会においてポピュラー音楽や音楽社会学的研究が永続して進められるべきであろう。

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